はじめに
きっかけは単純な疑問だった。
「Sony α7C II のUSB-Cの速度を最大に活かすには、どのケーブルを買えばいい?」
高いケーブルを買えば速くなる——そう思っていた。ところが実際に自分のPCを隅々まで調べていくと、答えは予想と正反対だった。ケーブルもポートも、ほとんど関係なかったのだ。
この記事は、USBの「理論値」に振り回された末に、本当のボトルネックにたどり着くまでの記録である。同じ勘違いをしている人はきっと多い。結論だけ知りたい人のために先に書いておく。
※筆者は専門家ではありません。本記事は一個人が自分の環境を調べた過程をまとめたもので、技術的な説明には正確でない部分が含まれる可能性があります。参考程度にお読みください。
カメラからPCへの転送速度を決めているのは、USBケーブルでもポートでもなく、SDカードだった。
第1の罠:「Gbps」と「MB/s」は別物
まず最初につまずくのがここ。カタログの数字と、実際にコピーするときに表示される数字は、単位が違う。
- Gbps(ギガビット毎秒):通信規格の理論値。カタログに載る数字
- MB/s(メガバイト毎秒):実際にファイルをコピーしたときの実測値
1バイト = 8ビット。さらにUSB通信では制御信号やエラー訂正に約2割を食われる。だから「5Gbps」という規格をMB/sに直すと、実効はおよそ 500MB/s になる。
| 規格 | 理論値 | 実効(目安) |
|---|---|---|
| USB 2.0 | 480Mbps | 約60MB/s |
| USB 3.2 Gen 1 | 5Gbps | 約500MB/s |
| USB 3.2 Gen 2 | 10Gbps | 約1000MB/s |
| USB 3.2 Gen 2×2 | 20Gbps | 約2000MB/s |
ここで大事なのは、転送速度は「一番遅い部分」に引っ張られるという原則。ケーブル・ポート・カメラ・カード、どこか一つでも遅ければ、そこで頭打ちになる。
第2の罠:ボトルネックは何段も重なっている
カメラからPCへデータが流れるルートは、こうなっている。
SDカード → カメラの基板 → USBケーブル → PCのポート → PC
この鎖のうち、一番細いところが全体の速度を決める。今回の検証は、この鎖を一本ずつ疑っていく作業だった。使ったのは無料ソフト USB Device Tree Viewer(USBTreeView)。デバイスが今どの速度でリンクしているかを正確に表示してくれる。
見るべき行はこれ。
Device Connection Speed… いま実際に繋がっている速度Device maximum Speed… そのデバイスが出せる最大速度Port maximum Speed… ポート側の上限
検証:容疑者を一人ずつ潰す
容疑者① ケーブル → クロ(だが誰でも直せる)
同じType-Cポート・同じカメラで、ケーブルだけを差し替えて比較した。
| ケーブル | 実測リンク速度 |
|---|---|
| 手持ちの「良いケーブル」 | 5Gbps(SuperSpeed) |
| 別のケーブル | 480Mbps(USB 2.0) |
なんと、あるケーブルに替えた瞬間、480Mbps=USB 2.0まで落ちた。見た目は同じUSB-Cでも、中身がUSB 2.0のケーブルは山ほどある。充電はできてもデータは遅い。
さらに罠がある。「良いケーブル」と思っていたものも、実は USB 3.2 Gen 1(5Gbps) 止まりだった。10Gbps対応と勘違いしていたのだ。ケーブルの箱には「USB 3.1」などと曖昧に書かれていることが多く、10Gbpsを出すには「USB 3.2 Gen 2」「10Gbps」「SS10」のいずれかが明記されている必要がある。
容疑者② USBハブ → クロ(見落としがち)
ポートとカメラの間に、外付けの4ポートUSBハブを噛ませていた。ログを見ると、このハブ自体が USB 3.2 Gen 1(5Gbps)の機器だった。
つまり——このハブに何を挿しても、絶対に5Gbpsを超えられない。ハブは「速度の蓋」になる。高速で吸い出したい機器は、ハブを通さず直挿しが鉄則。
容疑者③ BIOS → シロ
「ポートがBIOSで無効化されているのでは?」と疑い、BIOS(MSI CLICK BIOS 5)の USB Port Control を開いた。結果、全ポートが[有効]。ここは無実だった。
ついでに分かったのは、BIOSのこの画面にはIntelチップセットのポートしか出てこないこと。これが次の伏線になる。
容疑者④ ドライバー(ASMediaコントローラー) → 重要参考人
「背面には20GbpsのType-Cがあるはずなのに、なぜ10Gbpsが出ない?」
調べると、Z690マザーボードの20Gbps(Gen 2×2)ポートは、Intelチップセットではなく別チップ「ASMedia ASM3242」で動いている。ところがWindowsのデバイスツリーには、Intelのコントローラーしか表示されていなかった。ASMediaが行方不明。
これは典型的な「ドライバー未導入 or BIOSで無効」のパターン。20Gポートを目覚めさせるには、メーカー公式のASMedia USBドライバーを入れる必要がある。
どんでん返し:真犯人は最初からそこにいた
ケーブルを10Gbps対応(UGREEN USB 3.2 Gen 2)に新調し、ハブを外し、直挿しした。それでも——速度は上がらなかった。
ここで視点を変えて、実際にファイルをコピーして実測してみた。
α7C II から RAW(.ARW)ファイルを82個、707MB分コピー。結果は……
79.1 MB/s
USBのリンクは5Gbps(=実効500MB/s)出ているのに、実測は79MB/s。差の420MB/sは、どこへ消えたのか?
答えは SDカードだった。
使っていたのは KIOXIA EXCERIA PLUS(UHS-I、カタログ読み出し100MB/s)。UHS-Iというバス規格の上限が約104MB/s。そこにカメラ内蔵カードリーダーのロスが乗って、実測80MB/s前後が物理的な天井だったのだ。
USBが500MB/s出せても、カードが80MB/sしか吐き出せなければ、80MB/sで終わる。ボトルネックは、最初からずっとカードだった。
決定的証拠:どの機種でも「80前後」
面白いのはここからだ。まったく別のカメラでも、同じ結果になった。
| カメラ | カードスロット | カメラ直結の実測 |
|---|---|---|
| Sony α7C II | UHS-II対応(挿していたのはUHS-Iカード) | 79MB/s |
| Insta360 Ace Pro 2 | UHS-I専用 | 約80MB/s |
| DJI Osmo Pocket 3 | UHS-I専用 | ほぼ同じになるはず |
メーカーも規格も違う3台が、そろって「80前後」に収束する。共通点はただ一つ——UHS-IのSDカードを、カメラ本体経由で読んでいること。
(※Ace Pro 2 と Pocket 3 は厳密にはmicroSD、α7C II はフルサイズSDだが、UHS-Iというバス規格の天井にぶつかっている点はまったく同じ。)
これはもう、機種の垣根を越えた「UHS-Iカメラ共通の物理法則」と言っていい。
結論:何を買えばよかったのか
長い検証の末にたどり着いた、身も蓋もない結論。
接続まわり(ケーブル・ポート・ハブ・BIOS・ドライバー)は、「USB 3.0(5Gbps)以上」という最低ラインさえ満たしていれば、そこから上にいくら課金してもカメラの転送速度には効かない。速度の上限を決めているのはSDカードの規格である。
ここだけ注意。「一切効かない」ではなく「最低ラインはある」。前半で見たとおり、USB 2.0のケーブルやハブを使うと480Mbps(≒40〜60MB/s)まで落ち、カードの80MB/sすら出せなくなる。つまり足切りラインは存在する。ただしそのライン(USB 3.0 / 5Gbps)さえ超えていれば、10Gでも20Gでも結果は同じ、という話だ。
だから「速くする」ための正しい方向は一つしかない。
効くもの
- UHS-IIのSDカードに替える(V60/V90、読み出し150〜300MB/s)
- ただしカメラのスロットがUHS-II対応の場合のみ。α7C IIは対応、Ace Pro 2やPocket 3はUHS-I専用なので効果なし
- カメラを経由せず、カードリーダーに直挿しする
- カメラ基板のロスが消えるぶん、80 → 90〜100MB/s程度に微増
- これもカードがUHS-Iなら100MB/s前後が天井
効かないもの(お金を使っても無駄)
- 10Gbps・20Gbps対応の高いケーブル(カメラが5Gbps以下で頭打ち)
- そもそもα7C IIのUSB端子自体が SuperSpeed USB 5Gbps(USB 3.2 Gen 1)仕様。仮に300MB/sのUHS-IIカードを入れても、カメラから出るデータは最大500MB/s(5Gbps)の土管を通るので、10Gbps(1000MB/s)のケーブルは物理的にオーバースペックになる
- PCの高速ポート(同上)
- UHS-II対応の高いカードリーダー(カード自体がUHS-Iなら無意味)
いちばん伝えたいこと
「どのケーブルを買えばいい?」という最初の問いへの、本当の答えはこうだった。
ケーブルは何でもいい(USB 3.2 Gen 1対応の普通のもので十分)。速度を決めていたのはカードだった。
USBの規格表を眺めて「10Gだ、20Gだ」と盛り上がる前に、まず自分のSDカードとカメラのスロット規格を確認しよう。多くの場合、そこが天井を決めている。高速ケーブルや高速ポートが本当に活きるのは、NVMe搭載の外付けSSD(Samsung T9など、内部で1000MB/s超を出せる機器)を繋ぐときだけだ。
そして最後に——79MB/sで実際に困っているだろうか? 707MBが約15秒。数十GBでも数分の話だ。困っていないなら、答えはシンプル。何も買わなくていい。
理論値に振り回されず、実測してみること。自分の機材の「一番細いところ」を知ること。それが、遠回りして得た一番の収穫だった。
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